ベトナム独自の信仰「聖母道」

中国から伝わった道教と、もともベトナムで信仰されていたアニミズムに基づいて発展した民間信仰です。ベトナムではこのような宗教の混合がたびたび起こっていますが,どの混合宗教にもベースにベトナムのアニミズムが含まれているようです。

聖母道の神々は府という世界に住み,府には、天・地・水の三つに「岳」が加わって四府(しふ)となりました。

ベトナムの聖母道には60人の神がいるそうです。ベトナムでの聖母道では、実在の人物、英雄などを神になぞらえているので,場所によっては祀る英雄が足されている事もあるようなので,明確な神様の数等はあまり意味のない事かもしれません。

聖母道は母に祈る信仰

ベトナムは南北に長く,19世紀の統一まで北部,中部,南部でそれぞれ独自の文化と歴史を有していました。それらが1つの統一国家ベトナムとなるのは1804年の阮朝の成立によります。聖母道信仰は19世紀頃からある民間信仰なので,ベトナム国家統一後から存在していた事になります。

ベトナム統一以前では,農業で自然と共にある生活から土の神,水の神,稲の神を崇めてきました。その中でこれらの神様を母として考え,大自然を母として奉ってきたようです。その母親は子供達を守り,子供達である人々も何かのときには母に祈ります。この母に祈るという考えが基本となって,聖母道では女神様に祈りを捧げるという事になったようです。

聖母道は現在の生活に焦点を当てた信仰

聖母道は死後の世界ではなく,今現在の生活に焦点を当てた信仰です。健康で幸せで豊かな人生を送る事を祈願します。人々は願いを霊媒師を通じて、神に伝えます。

聖母道のハウドン(レンドン)の儀式では神々が霊媒師に乗り移り、予言や舞踏などを行います。

男性の霊媒師も多いのですが,神様は女性性と考えられているので男性の霊媒師は女性の様に振る舞います。

聖母道の儀式はベトナム神社で見る事ができる

旅行中,ベトナムの神社(日本の神社のイメージと違い,様々な神様を同時に祀っています。)で何回か聖母道のハウドン(レンドン)の儀式を見る事ができました。

初めはお寺と勘違いしていたのですが,詳しく見てみると,神々を祀るという意味で日本でいう神社の形態が比較的当てはまるようです。

実際のお寺も祠と同じ敷地内にあったり,ベトナムのお寺と神社は区別がつきづらい事もあります。

例えば,ラオカイで新賽寺を見学に行きましたが,”寺”という名称が付いていたのでお寺だと考えていました,しかし,聖陳祠という祠(ほこら)がありその手前で聖母道の儀式が行われていました。

初めはベトナム仏教の儀式かと思っていたのですが,後に聖母道の儀式だという事がわかりました。偶然何回か聖母道の儀式を見る機会がありましたが,だいたいお昼頃にやっているようです。

実際のハウドン(レンドン)の儀式を初めて見た時には服を何回も着替えて,お金を信者達にばらまいて,いったい何をやっているのだろう?と不思議で仕方ありませんでしたが,調べてみるとウェブサイトで詳しい説明をしているサイトがあったので,引用させてもらいます。視覚的にわかり易くするために写真も添付してみました。

<参考文献>
聖母道で最も重要な儀式のレンドン

”ハウドン(レンドン)の儀式
レンドンはベトナム語で、神が霊媒に乗り移って預言や踊りなどを行うことです。バードンと呼ばれる霊媒師を通じて、神と向き合う儀式です。レンドンは、宗教現象と民間芸術の要素が結び付いています。

霊媒師のバードンに、天の神、地の神、水の神、山の神がとりついて、人々はその神たちに祈りをささげます。

霊媒師は神によって、その都度、衣装を変えるそうです。

赤い衣装は天の神、

黄色い衣装は地の神、

白い衣装は水の神、

緑が山の神です。

天の神の使いは馬ということで、紙で作った馬に願いを書いたものを付けます。

それを、自分の身代わりの人形と護衛としての小さな龍と共に、燃やします。それが、煙となって天に願いを届けるということです。

地の神は黄色い象で、紙の象に願いを書いたものをつけて、それを燃やします。同じく、煙となった願い事が地の神に届けられます。

水の神への願い事は白い船を紙で作り、同じようにします。

山の神へは紙で作ったいかだに、同じく紙で作った12人の楽隊と二人の侍女を乗せます。

願いをかける人のその内容によって、霊媒師の変身も多くなり、衣装は多い時には24回替わるそうです。レンドンの踊りは、霊媒師の踊りです。普通の状態とは違う、まさに神がかった状態になって、とりついている神を表現します。そして、その神にまつわる様々な踊りを舞うということです。例えば、その神が将軍であれば、剣を手に持って、戦うような動きをします。

山林にいる神なら、民族衣装を着て、その少数民族独特の踊りを踊るなどします。霊媒師は衣装を変えて、それぞれの神を表現します。同時に、集まった周りの人たちに、紙幣や果物、花などのお供え物を、神からの贈り物として与えます。霊媒師は、周りの信者に神からの贈り物を分け与え、言葉ではなく身振り手振りで指示を出すということです。”

ベトナム人の精神の支柱であり,愛国心の源である聖母道

聖母堂には教義が見当たらず,始祖がいない。聖母道はベトナム人がベトナム人であるための信仰だった可能性

自分が聖母道を知って1番疑問に思ったのが,仏教やキリスト教にある経典や聖書が見当たらない事です。更には仏陀やキリストの様に始祖が見当たらりません。運営している組織というのもあいまいです。

おそらく,民間信仰として発展した聖母道は,中国支配や欧米支配の下,  ベトナム人としてのアイディンティテイ且つ拠り所として生き延びた様に思えます。

取り締まるにも経典や責任者がいなければ取締ようがありません。

愛国心の源である聖母道
聖母は,優しさ,気遣い,保護などの象徴であり,母は土,大地であり,聖母は母親を意味します。ベトナム人は昔から母親を重要視してきました。

聖母道には”国のために尽くした英雄を讃える”という考えがあります。

ベトナムの人々は先祖や国の英雄に感謝の気持ちを持っており,国を大切に思う気持ちが聖母道にも示されており,愛国精神は聖母道からも培われているようです。

なるほど,ベトナム戦争時の愛国精神とメンタルの強さが聖母道で培われたのかもしれないと考えると納得が行きます。

ベトナム女性の強さを感じるベトナムの日常

ベトナム女性の逞しさや強さはベトナムの日常でも多々感じる事があります。

女性博物館があるベトナム
1995年ベトナム婦人連合による働きかけでオープン。
ベトナム婦人連合とは,ベトナム共産党の主導団体である祖国戦線に所属する団体で,1500万人の会員数を誇る女性の地位向上を目指した巨大な政治団体です。聖母道の詳しい展示も女性博物館にあります。
女性博物館がある国はあまり聞いた事がないので,女性博物館があるという事だけでも女性の社会的地位が高いのが感じられます。

ベトナム国内では男の日はないのに女の日は年に2回ある

夫婦喧嘩では女性が必ず勝つと言われているベトナム

夫婦の中で影の権力者であるベトナム女性
ビジネスの場面においても最終決定者は,実は夫の方ではなく妻の方が決定する事が多いそうです。

■ベトナム女性が強い理由

ベトナム人の基本には日常で聖母道の女神様を敬い祈りを捧げてる精神があります。ベトナム人が昔から母親を重要視してきたことを考えてみても,ベトナム社会では元々女性を敬い信望する土台が出来上がっていると考えられます。

ベトナムでは家庭内で夫は女性に勝てません(と言われています),ベトナム女性は強いはずです。神ですから。

 


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